FAUST「TAPES」
叙情的な歌モノと演奏やノイズの断片のコラージュが大変に刺激的な内容の本作は彼らの生き生きとした姿を捉えている。これと比べれば前作「So Far」は去勢された牛のようだ。ここでも演奏は反復がその主題となっている。電気ドリルの音などのノイズとリリカルな歌世界がひとつの宇宙を構成しているという不思議さはファウストならでは。これは夢とうつつの間にある音楽で、あたかもそれが人がつかの間に見ることのできる夢の世界のようだが、彼らはそこからさらに、音が音でしかない世界へと連れて行く。
豊永亮(43) 15/Jun/2017
FAUST「SO FAR」
‘72年発表の本作を高校生で聴いた時、激しい曲は無表情で荒々しい印象を受けたが、改めて聴いてみると、その手つきはとても繊細で、叙情的な旋律を奏でるのと変わりはない。演奏者にとってそれらに分け隔てはないのだ。感情よりも理念を重視する彼らの構想する音楽は、西洋的に構築された楽曲と現実に存在するノイズのごった煮の様相を呈する。スケールがでかい。そこには音楽の深淵が顔をのぞかせている。それでも 響きはニュートラルでヒッピー的な明るさがあるのが彼らの個性でそれが魅力でもあるのだ。
豊永亮(42) 19/Apr/2017
SLAPP HAPPY「SLAPP HAPPY」
1974年発表の本作を夢中になって聴いていたのは高校生の時。HALF WAY THERE,THE SECRET , ME AND PARVATIを飽きることなく何度も聴いた。彼女の声の優しさと硬さ、ビリビリと震えるヴァイブレーションが大好きだった。これ以上に魅惑的な歌い手に巡り合ったことはない。僕の歌姫。それも昔の話、その後ダグマーは表現の枠を広げ、その歌声はドスが効き、ますます力強さが増していく。そのダグマーも好きだが、今にしてみれば、この頃のダグマーはそれゆえに神々しく感じられるのだ。
豊永亮(41) 23/Feb/2017
LEONARD COHEN「LIVE AT THE ISLE OF WIGHT 1970」
あまりにも感動的で心を揺さぶるライヴ。冒頭の「電線の上の鳥」から最後の「ナンシー」まで感動で言葉がない。どうしてこんなにも突き動かされるのか。会場に集まった荒ぶる60万もの若者が共感した彼の音楽の魅力とは何なのか。人はいかにして他者と出会うのか、どうやって真の己を知り得るのか。同じ人間同士なのに互いの境界は深くて遠く、人生はあまりにも短い。コーエンの歌は人の在り方に多くの問いを投げかける。会場の60万の魂のその後を知りたい。先日他界したコーエンの残したものを。
豊永亮(40) 28/Dec/2016
LEONARD COHEN「SONGS OF LOVE AND HATE」
ものすごく暗くてムードたっぷりの世界には訳詞を読む限り、人の複雑な感情が凝縮されているようだが、意味は簡単にはわからない。ただコーエンの深くて濃い歌声に惹かれる。ここにはキリスト教を知らない自分を救う世界があるのではないか。黒いユーモアの「鉱山のダイアモンド」、内省的な「愛がおまえの名を呼ぶ」、戦慄を覚える「ジャンヌ・ダルク」などの曲が好きだ。タイトルに「憎しみ」とあるが、このアルバムにそれはあまり感じられない。コーエンは憎しみとは無縁だという気がする。1971年発表
豊永亮(39) 18/Nov/2016