ETRON FOU LELOUBLAN「LES POUMONS GONFLES」
仏のエトロン・フー・ルルーブラン(狂ったクソ・白い狼)の1983年発表の3枚目のアルバム。曲のアレンジは前二作にあったフリーな面や素っ頓狂な歌い方は影をひそめ、フレーズの反復のブロックが構成されたメリハリの効いたものに変化しているが、ぎこちなくつんのめる疾走感とシアトリカルで愉快で楽しい調子は健在だ。そう、楽しそうなのだ。多様なリズムの上に構築されたカルテットのアンサンブルは緻密で激しく、既存の音楽形式からの逸脱を軽々とやってのけている。
豊永亮(71) 21/Feb/2022
ART BEARS「HOPES & FEARS」
アート・ベアーズの音楽は歌を中心に作られている。同じヘンリー・カウから派生したザ・ワークも歌に重きを置いていた。言葉、思想が音楽を作る際に個々の考えの違いを浮き彫りにして、カウを分裂に至らしめた。汎ヨーロッパのダンス音楽への接近、張りつめた空気、多用される複雑な拍子とミステリアスなメロディーがこのアルバムの特徴として挙げられるが、力強い”In Two Minds”はそんな形容を超えて美しい。ダグマーの歌う”Night is the only time I have”の一節に心をつかまれる。1979年発表
豊永亮(70) 21/Dec/2021
ROBERT WYATT「RUTH IS STRANGER THAN RICHARD」
『ドブネズミ』の連作と瞑想的な器楽曲を収録した面が強い印象を残す。夢とうつつの境のような超現実的な世界はワイアットが以前から志向していたものだ。反対の面の最大の聴きものはイーノも参加したパワフルなアンサンブルがワイアットの歌を盛り上げる『チーム・スピリット』。チャーリー・ヘイデン作『ソング・フォー・チェ』のカバーは原曲のメロディーを強調したシンプルなアレンジが祈りのような効果をもたらしている。私はこの曲をきっかけにチェ・ゲバラに興味を持った。1975年作
豊永亮(69) 21/Sep/2021
BRIAN ENO「BEFORE AND AFTER SCIENCE」
前半の動と後半の静との対比が美しいアルバムだ。シンプルな構成の曲の録音に参加したミュージシャン達にはかなりの自由度が与えられ、それがアルバム全体に風通しの良さをもたらしている。それはイーノがミュージシャンを信頼しているが故だろう。各曲のミュージシャンの選択、効果的な音処理や全体の仕上げにイーノのセンスが光る。オープンで、濁ったところのないクリアーな世界だ。僕が特に好きなのはアルバムの後半だ。内省的で研ぎ澄まされた世界に心を揺さぶられる。1977年発表
豊永亮(68) 29/Aug/2021
BERNARD HERRMANN「TAXI DRIVER」
重厚で張り詰めたホーンの響きは主人公トラビスと世界との間にある緊張とカタストロフの予兆を、甘美なテーマ・メロディーは都会の夢と孤独を想像させる。B・ハーマンによる最後の映画音楽は悪夢の様な物語と合体してシュールだ。トラビスはデートに女性をポルノ映画に連れて行って振られ、大統領候補の暗殺を企てたかと思うと、12歳の売春婦を助けようとしたりと、その行動は矛盾に充ちて狂っているが、孤独で不器用なこの若者に私は引き込まれるのだ。有名なモヒカン刈りはカツラ。1976年公開
豊永亮(67) 27/Jun/2021