CAPTAIN BEEFHEART AND THE MAGIC BAND「DOC AT THE RADAR STATION」
1980年発表、ビーフハート渾身の一作。当時、本人が言及したように、本作はパンク、ニューウェイヴに対する彼の見解でもある。しかし、それは他の音楽に対してのみならず、社会に対する意思表示でもあった。英語に対する文化的含蓄を持たない私の限界として、歌詞のユーモア、批評性を棚上げする。演奏は難なくこなされているかのようだが、ここに刻まれているのは変人の名人芸ではなく、バンド・アンサンブルの極限に挑んだ軌跡であり、重要なのはそれが社会に流通されたことなのだ。
豊永亮(79) 18/Jul/2023
THE RAINCOATS「THE RAINCOATS」
大抵の曲は進行に従ってテンポが上がったり下がったりするし、感情の揺らぎがそのまま現れる歌声は、小さな乱れで崩れてしまいそうなもろさの上に成り立つアンサンブルに支えられている。孤独感、疎外感、性差別などの主題がグループによって歌われると、そこから人としての暖かさが溢れてくる。結局人は人を信じるしかないのではないか。誰も頼るもののない都会ロンドンで、彼女たちは自分たちが自分たちであることを証明するためにも、バンドを組まざるを得なかったのだ。 1979年作
豊永亮(78) 23/Jan/2023
JOY DIVISION「CLOSER」
ユダヤ人捕虜収容所のナチスの将校達を相手にしたユダヤ人の慰安所から取られたバンド名がそもそもの間違いだったのではないか?バンドが終わったのはカーティスの自死によるが、そもそもの出発時点で道を間違えたのかも知れない。そのバンド名の不健全さ、非道徳性故に。リズムが循環するバンド・アンサンブルの純度はこれ以上にないほどに高まり、物憂げな歌声はナチスの残忍な思想とは相容れない、繊細で優しい若者の苦悶を描いている。1980年作
豊永亮(77) 03/Jan/2023